2026年8月22日(土)、第77回まなばナイトが開催されました。
今回のテーマは、新版『学習設計マニュアルVer.2「おとな」になるためのインストラクショナルデザイン』(鈴木克明・美馬のゆり編著、北大路書房)を読み解くこと。名古屋の現地会場とオンラインをつなぎ、Ver.1から何が変わったのか、そして新版をそれぞれの教育・研修の実践にどう生かすのかについて、参加者同士で「ワイガヤ」しながら考えました。
まず、「学びについて学ぶ」機会は意外に少なく、本書は自分自身の学び方を考えるための一冊でもある、との書籍紹介からスタート。その後、「Ver.1とVer.2のちがい」「Ver.2でハッとした部分」「これからの宣言」の3つのテーマでグループワークを行いました。
最初の「Ver.1とVer.2のちがい」では、2冊を見比べながら、まさに“宝探し”のように変更点を探しました。第1章の構成やタイトル、章の順番の変更に加え、Academic Integrity、生成AI、ダイバーシティ&インクルージョンなど、現在の学習環境を反映した内容が新たに盛り込まれていることが話題になりました。単に新しいトピックが追加されたのではなく、「今、学ぶとはどういうことか」という視点から全体が見直されていることが、参加者同士の比較を通して見えてきました。
なかでも議論が盛り上がったのが、自己調整学習(Self-Regulated Learning)と自己主導型学習(Self-Directed Learning)についてです。
Ver.1では自己調整学習は取り上げられていましたが、Ver.2では自己主導型学習がより明確に位置づけられています。「なぜ今回、自己主導型学習が加えられたのか」という質問に対して、鈴木克明先生から、自己調整だけで終わるのではなく、最終的には自分自身でゴールを決め、そこに向かって学んでいくことが必要だから、という説明がありました。
鈴木先生はこれを、キャリアにおける「川下り」と「山登り」に例えられました。まずは与えられた目標に向かって、自分自身を調整しながら進む。これは「川下り」、すなわち自己調整学習です。しかし、その先には「自分はどの山に登るのか」を自ら決める段階があり、そこでは自己主導型学習が必要になります。
一方で、自分で目標を決めたとしても、それに向かって学習を調整できなければ前には進めません。つまり、自己主導型学習を実現するためにも自己調整学習の力が必要になります。ただし、小学校の自由研究や総合的な学習などを考えると、子どもの頃からすでに「自分の興味から問いを見つけて学ぶ」という自己主導的な学習は存在しています。両者を単純な段階論としてだけ捉えるのではなく、学習者の状況に応じて育てていくことが重要であることが議論されました。
この議論を聞きながら、教育を変えるためには、教える側だけでなく学ぶ側へのアプローチの重要性を改めて感じました。Faculty Development(FD)などを通じて教員の教育力を高めることはもちろん重要ですが、すべての教育者が短期間に変わるとは限りません。一方で、学生自身が「学び方」を身につけ、与えられた教育環境を主体的に活用できるようになれば、自らの学びを前に進められる可能性があります。『学習設計マニュアル』そのものを活用したり、そのエッセンスを組み込んだ授業をさまざまな分野で設計したりして、学生が早い段階から「学び方を学ぶ」経験を重ねることも、教育を変えていく一つのアプローチなのではないかと思いました。
生成AIについても多くの意見が交わされました。印象的だったのは、AIを学習の「援助者」として捉える考え方です。AIにレポートを書かせるか否かだけを議論するのではなく、「どのような問いをAIに投げかけ、何を考え、AIからの回答をどう判断したのか」という学習プロセスそのものを見る必要があるのではないか、という意見が出されました。生成AI時代だからこそ、答えそのもの以上に、問いを立て、他者と対話し、考え、行動するプロセスの重要性が増しているように感じます。
最後のグループワークは「これからの宣言」。今回得た気づきを「面白かった」で終わらせず、明日からの教育や研修、仕事にどう生かすのかをそれぞれが言葉にしました。学生が主体性を持てる授業を考える、本書をキャリア教育で活用する、職場の研修にIDの考え方を取り入れるなど、それぞれのフィールドにつながる具体的な宣言が共有されました。
最後に鈴木先生から、本書を実際の授業でどう活用しているかという紹介がありました。限られた授業回数の中ですべての章を一律に教えるのではなく、学生が投票して授業で扱う章を決め、残りは希望者が取り組むオプション課題とするという実践です。
「やらなければならないこと」に取り組めるように支援することも教育ですが、「やらなくてもよいことを、自分で選んでやる」機会をつくることもまた教育です。自己主導型学習を教えるだけではなく、自己主導的に学べる環境そのものをデザインする。その具体例として、とても印象に残りました。
今回のまなばナイトは、本を一人で読むだけでは得られない、多様な気づきに出会う機会となりました。同じページを読んでも、教育、医療、企業研修など、それぞれの立場によって「ハッとするところ」は違います。それを持ち寄り、参加者同士で議論し、著者に直接問いかけ、最後は自分自身の次の行動につなげる。
新版『学習設計マニュアルVer.2』を題材にしながら、私たち自身が「これから、どう学び続けるのか」を考える、まなばナイトらしい2時間となりました。
熊本大学大学院教授システム学専攻 修士課程3期修了生 都竹 茂樹