第42回 まなばナイトレポート
テーマ「使ってますよ、ID!
~IDの実践をとおして現場で何が変わったのか、何が変わらないか~」
第42回まなばナイトは、IDの実践をテーマに大阪で開催されました。
今回のスピーカーは、10期修了生の三宮さん、10期修了生(後期博士課程在学中)の政岡さん、9期修了生(後期博士課程在学中)の中前さん、平岡先生でした。
スピーカーのほとんどの方が医療関係者ということもあり、在学生のみならずIDに興味のある医療関係者の方の参加が多く見受けられました。
僭越ながら13期生の増永が感想をお伝えさせていただきます。私は、静岡の大学病院に勤務する中堅看護師であり、今回のまなばナイトは、修了された医療関係の諸先輩の実践的な取り組みを聞きたく大阪まで足を運びました。
10期生修了生:三宮さん
三宮さんは、看護学部の基礎看護学分野の教員であり、IDと看護学部の学生さんの学習支援についてお話をされました。基礎看護学とは、その名の通り、看護の基礎を学ぶ分野です。
ここで三宮さんは、いつもメーガーの3つの質問を念頭に授業設計をされているようです。学生がどうなることを期待しているのか、この授業のゴールは何かを、大事にし、一方向型の講義の方法ではなく、体験型のワークをとおして授業設計、実践していることを話してくださいました。この取り組みにより、学生の学習が変わってきていると感じているようです。
三宮さんは、修了してフィールドや役割が変わり、授業の設計や実践に苦慮したとのことでしたが、IDの理論やモデルを活用し、職場の方々とより良い教育を目指しているようです。今後は、「教育実践の評価」を適切にし、未だ変えられていない学習上の課題を解決していく必要があるとのことでした。
臨床の現場にいる私自身、基礎教育である学校教育と臨床の間には、学生担当や新人教育を行う時に大きな乖離があると感じます。ゴールの設定をどこにするのか、基礎教育がここまでできれば、臨床ではさらなる発展ができるというように、基礎教育と臨床でのコンセンサスが必要であると思いました。
10期修了生(後期博士課程在学中)の政岡さん
政岡さんは、臨床の看護師であり、集中治療のエキスパートである集中ケア認定看護師という立場でこれまでに臨床の教育で実践された内容についてお話をしてくださいました。
政岡さんがフィールドとしていた部署では、それまでも様々な経験値のスタッフの教育教育が行われており、そこに政岡さんは、IDの知見を駆使され、経験年数の浅いスタッフでも重症患者を担当することができるようにチェックリストを開発され教育をされたそうです。その結果、経験の浅い看護師でも重症患者を担当できるようになった、ということです。また、IDを用いた教育の効果として、後進の育成を行うことができ全体像のボトムアップに繋がったそうです。
私が働く部署も政岡さんがフィールドとされていた部署同様スタッフ層やKKDの教育といった共通点が多くあります。政岡さんは認定看護師として院外にもIDの知見を広められています。私はいちスタッフですので同様の境遇として政岡さんのノウハウとこれまでのGSISの学びを取り入れ、これからも自部署や自身が担っている研修から少しずつ教育の改善を行なっていきたいと思いました。
9期修了生(後期博士課程在学中)の中前さん
中前さんは、臨床検査学科の教員です。検査学科の教員で検査分野ではまだIDという考え方がまだあまり知られていないようです。
中前さんは、GSISでの様々な知見を生かしながら授業設計を行われ、アクティブラーニングを実践されています。講義と期末試験をやめたいという意気込みを持ち、学習者の行動変容が明確となる評価方法を試行錯誤しながら日々奮闘されているとのことでした。また、周囲に同志を作るために、はじめてやる授業設計などは自ら手を積極的にあげ、最初の「原案」を作成しその中にIDのエッセンスを取り入れながら、中前さんいわく、密かなIDの布教活動を行っているとのことでした。
この日々の奮闘の結果、変わったことは学生さん側の授業に対する満足度の向上です。これまでは、「何を教えたのか?」を視点に学習を組み立てていたことが「何ができるようになって欲しいか」という学習者の視点で設計をするようになったという変化があったとのことでした。まだまだ、変わらないことは、学生さんの行動変容とその評価についてで、今後も研究の課題だそうです。
平岡先生
平岡先生は、3人のスピーカーの方とは少し視点をかえ、実践ではなく、外部から実践をサポートする側の立ち位置を先生ならではの切り口でお話をされました。ある企業の研修担当者から新人研修についてIDを取り入れたいという相談を受け、ボランティアの立場で介入した際のお話でした。結論から言えば、これまでのやり方(旧式)に慣れている人は、新たなやり方(新式)を取り入れる場合、大幅変更することの抵抗の強さがあり面倒な壁となってしまう。そのため、外部から介入する場合の教訓として
①IDのスキルを持つ仲介者(リエゾン)を中に設定し、人的環境整備を整える
②具体的な提案をする
③上長をまきこんでおだてる
④新式を相手にする
ということを述べられました。私は、外部から介入する場合のみならず、様々な面でこの教訓はあてはまるのではないかと思います。
4人のスピーカーのお話の後に、グループワークを行いました。グループワークでは、「缶詰の新人の集合研修の評価について、現状が問題と思っていない人にどう介入すればよいのか」「医療業界でIDを学ぶ人が多いのは?」「ID使ってみたいけど、どう介入したらよいかわからない」といった現在の教育をなんとか変えたいという趣旨の質問が寄せられました。
研修で何を習得してもらいたいのかという明確な目標設定、それに沿った評価方法が必要であることや、これまでの医療教育というのがいけてないという危機感があるからIDを学ぶ人が増えているという意見がありました。また、IDをもっと広めるには、トップダウンも必要ではないかという意見も聞かれました。
確かに上長が変われば方針が変わり、白いものを上長が黒といえば黒(IDが良いと言えばIDとなると思います)・・・といった社会の風潮があります。航空業界も国土交通省航空局からパイロット育成にIDを用いるという方針により、IDの需要が高まりました。よって、GSISを卒業された医療関係のお偉い方々がもっと偉くなればIDを用いた医療業界の教育転換も遠くはない未来だと思います。
クロージングに鈴木先生からGSISの魅力についてお話がされました。GSISに入学してくる人は若い人ではなくよりも熟年者である。各自のフィールドでそれなりの立場であることから修了してから数年で成果を出すことができている。このように日々の実践を報告する会が刺激になりネットワークも拡大していくとのことでした。また、無料版の「教育改善スキル修得オンラインプログラム」について案内をされ、IDの深い世界へ誘われました。
先輩方や先生のお話を聞いて感じたことは、コツコツと奮闘し仲間をつくりながら成果を出していくということが重要であると思いました。先輩方のように成果が出せるように、修了に向かって頑張りたいと思います。
熊本大学大学院教授システム学専攻 増永 恵子