第5回まなばナイトレポート

コロナ禍での遠隔授業、IDerとしての取り組み・後悔・これから

2021年10月のまなばナイト@関西は、緊急事態宣言明けではありましたが、Zoomによるオンライン開催でした。今回のテーマは『コロナ禍での遠隔授業、IDerとしての取り組み・後悔・これから』でした。新型コロナの影響で昨年より、半ば強制的に遠隔授業が常態化しきました。教室での授業が戻りつつある中で、このコロナ禍で経験した取り組みやその反省点やアイディアなどを共有できた時間でした。


●セッション1の話題提供は、修了生3名から各々の教育現場の事例をもとに体験した取り組みやその反省点、アイディアなどを共有いただきました。

■森田淳子さん(博士前期7期生)

「ある日本語教師のデザイン修行:コロナ禍転じた福もある」というテーマで都内の大学で理工系を専攻している留学生を対象に日本語を教えていく上での発表でした。コロナ禍での変化は、①自国にいる留学生の中には教科書の入手困難者がいたので教科書を変更した。②従来のアナログを改め、電子化を促進した。③紙媒体からLMS上でのやり取りに変わった事の3点を発表してくださいました。

多くの不安を抱えつつ授業デザインの見直しを踏み出せたのは、昨年4月の鈴木先生が御登壇された国立情報学研究所のシンポジウムのお話が心の支えとなった事や、昨年8月のまなばナイトで取り上げられた本の『インストラクショナルデザイン理論とモデル』が参考になり見直しのきっかけとなった事など、当時の心境など交えながらお話してくださいました。

まとめで、鈴木先生の昨年4月の御登壇で述べられた「平常に戻るまでの遠隔授業のデザイン7か条」の7番目を念頭に置きつつ、今回の改正でよくなった点は、今後も生かす方向で行く考えでいると述べられていました。その他日頃の準備で、①授業改善は普段から意識しておくこと、②修了後の新しい情報を得るためのアンテナを張っておくことの必要性を共有してくださいました。私にとって、ハッとするまとめの言葉でした。早速、テキストやビデオなど再チェックしようと思いました。

【森田さんの発表に関する鈴木先生のコメント】

森田さんのお話にも出た「国立情報学研究所」でのシンポジウムの講演内容を交えながらコメントをいただきました。GSISと他大学との授業設計のそもそもの違い、授業以外の活動にICTツールをどう使うか、本当の意味でのハイブリッドなど興味深いお話しでした。

詳細は,国立情報学研究所「教育機関DXシンポ」【第4回】:「無理はしないで同じ形を目指さないこと:平時に戻るまでの遠隔授業のデザイン」をご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=v_Wrmnbgaoo


■米山あかねさん(博士前期4期生)

「オンライン大学のコロナ禍前・後で変わったこと・変わらないこと ―サイバー大学の事例から―」のテーマで発表いただきました。サイバー大学は普段からフルオンラインの大学であるため、学生にとっては大きく変わっていないそうですが、学生の授業以外の点での変化はあったとのことで、①教職員のテレワークの本格化、②学生への同期型指導の普及についてのお話でした。

教員のテレワークによって学生が自宅から1人で参加することの戸惑いや不安を知ることができた事や、メインターゲットを絞った同期型指導を行う動きなど興味深かったです。

発表の終わりは、鈴木先生の9月の御登壇を受けてまとめられていました。サイバー大学は、基本的に非同期型の授業コンテンツ・課題が授業時間内であると同時にQ&Aの掲示板やメールでの指導も授業時間内です。しかし、このコロナ禍を受けて、少しずつ同期型のオフィスアワーや補足抗議などの活動が授業時間外として追加の動きとのことでした。

私もGSISでのオフィスアワーや合宿などの同期型指導では、各科目のMoodle授業とは異なった学びを深めることができたと感じています。また、日常の学習の不安感を早期解決できて気持ちが楽になった経験を思い出しました。スパイスのようにピリッと効果が感じられる同期型は重要だと思います。

【米山さんの発表に関する鈴木先生のコメント】

サイバー大学もGSISもこだわりを持って非同期型でやってきたが、コロナ禍を経て同期型を組み入れる動きが出ている。例えばGSISの科目履修でもディスカッションをするオフィスアワーのような導入を検討している。同期型・非同期型は全然違う文化だが、この二つをうまく使いこなす事が今後の課題である。とのコメントを頂きました。

詳細は,国立情報学研究所「教育機関DXシンポ」【第40回】:「コロナ以降の高等教育デザイン:何を目指して何を残し何を始めるのか」をご覧ください。https://www.youtube.com/watch?v=PBeOdH5YeKY


■宮下伊吉さん(博士前期2期生)

「コロナ禍での変化と課題~M大学のある高大連携の現場より~」として、高大連携の開催方式について、コロナ禍以前の対面開催とコロナ禍のオンライン開催での変化について発表してくださいました。

オンライン授業を実施する時の使用ツールについては、高校側の環境に合わせる必要があるため、授業毎に進め方やグループワークの方法の工夫が必要だそうです。アンケート回収率の変化について、昨年までの紙回答をpdf化してメール送信してもらっていたものを今年度はオンライン掲示板回答としたところ、実施した全て7件分の回答を得られたそうです。デジタルツール導入の効果です。

高大連携のオンライン化をコロナ禍で進められましたが、実はコロナ禍前でも取り組むべき点もあったのではないかという反省点も挙げられていました。

発表後の司会者井上さんとのやり取りで、「今年は県立高校ではノートPCを1人1台ずつ持ち始めており、私立高校は共用PCを2人で1台の所もある。」と宮下さんが話されたことに対して、「高校教育の現場では今年がIT化元年と言えそうですね。」と井上さんがコメントされていました。


セッション2はブレイクアウトルームに分かれてディスカッションを行いました。発表者3人のお話を聞いて感じた事や自分自身がコロナ禍の実務で困ったことを話し合いました。また、グループで話し合ったコロナ禍の事例で良いと思った点や自分自身の方法をまとめました。

グループディスカッションの後、鈴木先生への質問コーナーがありました。熱のこもったコメントをたくさんいただきました。特に、授業の分解のご説明は興味深かったです。

■質疑応答

Q:教室での授業の一部の科目にハイフレックス方式が導入されている。ハイフレックス方式について教えて欲しい。

A:ハイフレックス方式を行う場合は、必ず助手が必要であり教師1名での対応は難しい。ハイフレックスの実施は、学校に来ない者を許容しなくてはいけない諸事情によるもの。

また、技能方法を学ぶのは遠隔ではできない。実際には対面で授業しているほとんどの部分がオンラインでも実施可能である。実際にできるようになったかをチェックするのは対面でないとできないが、それができるようになるための準備ができているかどうかはオンラインで可能。そのように分解して考えることが必要だ。対面でないと教えられない、チェックできないかを見極めることが大切である。

Q:同期型の授業を前提とした学生にとって非同期型の授業はなじまないのではないか?

A:馴染まない理由は、教員に全部やってもらえると思っているので、オンラインになると直接やってもらえなくなることに不満を持つようになるからだ。遠隔教育の受講者は自分自身で学ぶことを身に着けている。一方普通の大学教育は、教員から指示されないと学習できない。大学というところは昔から教えないところだと言われていたが、今では教えて過ぎている。その弊害は自分自身で学ばなくなったことだ。


最後は、桑原さんの締めの言葉で終わりました。


今回も「まなばナイト」で多くの学びを頂きました。今までGSISで行ってきた事がコロナ禍で普通の学校(今まで同期型が主)に広まりましたが、この先コロナが収束しても元に戻すのではなく、非同期型・同期型を上手に併用することが大事な課題であることを学びました。私自身は民間企業に勤務していますが企業内研修でも参考になる点が多くありましたので、今後の業務に応用していきたいと思います。


                                        GSIS13期修了生  川村 美好