第22回 まなばナイトレポート
GSIS修士5期生、博士後期課程在籍中の野田 啓子です。
2016年2月11日(木・祝)、東京品川の富士通ラーニングメディア「CO☆PIT」にて、第22回まなばナイト「カークパトリックの第4段階を大検証:OBOGは今」が開催されました。
参加者は13名、アットホームな雰囲気の中、鈴木克明専攻長からオープニングとして、「カークパトリックの4段階評価法」の提唱者で、2014年に亡くなられたドナルド・カークパトリック博士(ウィスコンシン大学名誉教授)にインタビューをした時の映像が流れました。インタビューは今から約10年前。80歳のカークパトリック先生と、GSIS黎明期の鈴木先生の映像に、参加者一同、しばし見入ってしまいました。
カークパトリックモデル(カークパトリック博士自身は「モデル」や「レベル」とは呼んだことはない、とのこと)は1959年、奇しくも、鈴木先生がこの世に生を受けたのと時を同じくして発表されました。米国人材開発機構(American Society for Training & Development:ASTD。現Association for Talent Development: atd)論文誌に、「評価」についての4回シリーズ「反応」「学習」「行動」「成果」を発表したことが始まりです。
その後、様々な場面で使われるようになり、1993年に書籍にまとめられ、発表から50年以上、全世界の企業や教育現場で活用されています。
と、理論的な話はさておき、本日のまなばナイトの裏テーマは、「熊大GSISについいやした時間・お金・労力の元は取れたのか?」….修了生の一人として、胸に手をあてて考えたいような、考えたくないようなテーマです。
GSIS修士3期生の八木さん、4期生の植田さん、5期生の石井さんから、OBとしての「いま」を発表していただきました。
北海道大学高等教育推進機構オープンエデュケーションセンター特定専門職員 八木 秀文さん (修士3期生、博士後期課程在学中)
大学(理系)を卒業後、化学系の研究職・工場長を経験し、eラーニング(熊大GSIS含む)で学び、私立大学の学習支援センター学習アドバイザーを経て、現在、北海道大学でインストラクショナル・デザイナーとして、反転授業やMOOCコンテンツの開発に携わっておられます。
職員として、先生方(Subject Matter Expert =SME)と綿密な打ち合わせを行いながら、学習目標の設定や授業設計の手法など、教職協働をしながら、高品質な学習コンテンツの開発と提供、グローバル発信、先生方がご自身の授業を見直すきっかけづくりに日々奮闘されていらっしゃいます。
【感想】
教育というキーワードで、生涯学び続けること、学びと活動の場所を全国各地・業種や立場を変えながらも、GSISでの学びだけでなくこれまでの人生経験もフルに活用している様子が伝わってきました。まなばナイトの発表のために北海道-東京を往復された八木さん、お疲れ様でした!
ソフトウェアエンジニア/ラーニングデザイナー 植田 清一さん(4期生 2011年修了)
植田さんからは、「サード・プレイスでの学びと実践:アートを介した学びの場づくりの実践」というテーマで発表をいただきました。サード・プレイスとは、自分の家(ファースト・プレイス)、職場(セカンド・プレイス)、それ以外の創造的でインフォーマルなコミュニティのことを指す言葉です。
IT企業に勤めながら、週末には、東京・上野にある東京都美術館で、東京都美術館と東京藝術大学が連携して行なっているアートを介してコミュニティを育む事業「とびらプロジェクト」で「アート・コミュニケータ(愛称“とびラー”)」として活動されています。
現在、10代から70代まで、100名近くの“とびラー”が在籍し、ボランタリーな立場でありながら、「ボランティア」や「サポーター」とは呼ばず、主体的なプレイヤーとして位置付けられているそうです。与えられた仕事だけではなく、多様なメンバーからのアイデアをもとに企画を立ち上げ、さまざまな企画を実施しているそうです。
GSISでの学びを経験して、学ぶことが好きになったという植田さん。「学び続けることで自分自身をアップデートしたい」とおっしゃっていたのが印象的でした。とびラーどうしの「越境学習」、「チャレンジしてもいい、失敗しても大丈夫!という仲間がいる環境」というサード・プレイスでの学びの実践をご紹介いただきました。今では美術館での活動を飛び出して、オリジナルなイベントも企画しているそうです。
【感想】
今回はアートのお話でしたが、アートに限らず、何かを「触媒」として、「学ぶ」という活動が人をつなぎ、人を豊かにするという可能性を大いに感じ、サード・プレイスを開拓したくなりました。
情報システム学会教育情報システムデザイン研究会主査 石井 嘉明さん(5期生 2012年修了、博士後期科目履修生)
IT企業に勤めている石井さん。GSIS在学中の目標は企業内にLMSを導入すること。その目標は修了後、叶えることができたそうです。GSISのコンピテンシー11「実践から得られた成果を学会や業界団体等を通じて普及し、社会に貢献できる。」を実践すべく、学会発表や製品・サービス開発を行ってきた石井さん。
しかし、職場で扱っている内容は、企業秘密であったり、開発中の技術であったり、外部への発表にはさまざまな制約がかかるものでした。そこで、個人での活動を活発化させ、論文投稿やオープンソースのLMSに関する勉強会への参加・講演、同じ課題を持つ異業種のメンバーと共同研究開発、情報システム学会(ISSJ)内に新たな研究会を立ち上げ、調査・研究を進めてきたそうです。
情報システム学会は、主にビジネス系のメンバーが多く、発足して10周年を迎える学会です。学会では、「情報システム」とは、コンピュータシステムだけではなく、人間活動を含む社会的なシステムであると定義しています。つまり、「人とコンピュータの“なじみ”がうまくいかないと、システムはうまくいかない」という人間中心の考え方に基づいているとのこと。
石井さんの中には、「LMSが人間を置き去りにしているのでは」という思いがあり、オープンソースのLMSや、また、eポートフォリオの機能や活用事例(失敗例)を集約し、「eポートフォリオへの一歩を踏み出そう」という本を電子書籍で出版しました。研究会の設置や電子出版にこぎつけるまでには手続きや理事会への説得など、様々なハードルがあったとのこと。それを一つ一つ乗り越えてきたのは、仲間の存在だったと言います。
【感想】
同期の石井さん。修了してから4年が経というとしています。同期が今何をしているのか、とっても興味があるので、また、同期で集まりたいなと思いました。
テーブルディスカッション・質問タイム
10分間のテーブルディスカッションで、スピーカーに聞きたい2つの質問を考えました。
「職場での実践は難しいのか」、「カークパトリックの4段階目はROI(Return on Investment 投資効果)が含まれるが、企業ではなく学校や研修などの非営利的活動におけるレベル4とはどういう状況を指すか」といった質問が出されました。
スピーカーのお二人(植田さん、石井さん)からは、アートプロジェクトの参加者に行動変容が見られたこと、や、GSISの経験を経て、入学時の目的達成と本業以外の派生活動に発展できた。そのことがレベル4だと思うというお話がありました。
クロージング:鈴木克明専攻長
開口一番「レベル4は難しいな!」。鈴木専攻長からは、GSISを修了して、学位を取得したことがレベル2、GSISで学んだことが業務での行動変容につながったことがレベル3。では、レベル4はどうなのか。たとえば、とある企業が社費で社員をGSISに派遣したとする。その社員が修了し、学んだことが会社の業績に貢献したという結果がでればレベル4を達成したと言える。しかし、会社派遣ではなく、個人で入学した場合はどうなのか。レベル4は何も企業組織に限ったことではなく、自分を「個人事業主」として見た場合、GSISに対して投資したお金、時間、労力で、自分自身にリターンがあったかどうかで判断できる。熊大GSISに投資した分、どんなリターンがありましたか?
という言葉で、第22回まなばナイトは締めくくられました。
【全体の感想】
今回、3名のスピーカーのみなさんの多岐にわたるお話はとても興味深いものでした。あらためてGSISにはいろいろな人がいるのだなあと思った次第です。
みなさんに共通していたのは、「自ら学び続けることを楽しんでいる」「人と何か(人、モノ、コト、システム)をつなげる役割を担っている」「仲間・コミュニティの存在を大切にしている」ということでした。これは、もしかしたら、GSIS修了生に共通するのバリューなのかもしれません。私自身、個人で入学しましたが、一番のROIは、ともに学び、悪戦苦闘し、励まし合い、はじけ合った仲間を得られたことだと思っています(同期だけでなく、先輩・後輩、先生方も含めて「仲間」と呼ばせていただきます)。仲間をお金で買うことはできないですが、投資した見返りとしては得ることができるもの….なのかもしれません。
以 上
熊本大学大学院社会文化科学研究科 教授システム学専攻
博士前期課程修了(5期)、同博士後期課程在籍
学校法人武蔵野大学 企画部 企画・広報課 主幹 野田 啓子