第57回まなばナイトレポート

      「ジョブエイドと教材開発のここだけの話

 寒くなったり、暑くなったり気候が定まらない2022年秋、関西発のまなばナイトが開催されました。コロナ禍の中、今年も遠隔による開催でしたが、多くの皆様にご参加いただきました。

 Gsis博士後期課程同窓生の桑原さん司会のもとに始まったまなばナイト、おつまみやお酒を飲みながら気軽に参加、の趣旨のもと、関西の某会議室でも鈴木先生からいただいた!ワインを飲みながら昨年度博士前期課程を修了されたばかりの3名の皆様の、修士論文テーマから発表していただきました(実はウラでは、関西メンバーが慣れない?Zoomの扱いにあたふたしていたことは内緒です・・)。


 今回のテーマは「ジョブエイドと教材開発のここだけの話」です。ジョブエイドは学習者を支援するツールですが、その開発の過程での苦労や反省、後悔などなどここだけの話も含めてご紹介いただき、いろいろな思いを共有して、自身の課題解決に生かせそうなネタを集めてみませんか?という趣旨で登壇していただきました。

 私、不勉強でジョブエイドについて曖昧な理解しかなかったので、少しご紹介。「ある仕事のパフォーマンスに関連して、後々取り出すための情報を保持する能力を持つ道具(Duncan)」とされています。検索エンジンなどでさまざまな情報に自由にアクセス出来る時代ですが、初学者にとってはどこから手をつけていいかわからないことも多く、そのために、特に業務に取り込まれた支援をジョブエイドとして提供することが、とくにパフォーマンス支援の一部として受け入れられている、ということです(根本、2015)。


 テーマは3つで、最初は博士前期課程15期生でキャリアコンサルタントの吉田文子さんから初学者キャリアコンサルタントの問題把握のジョブエイド開発」というテーマで発表していただきました。ご自身がキャリアコンサルタントでいらっしゃる吉田さんは、キャリア支援時のコンサルタントのインタビューを行う際の支援ツールの開発を修士論文のテーマとされました。

                    論文:https://idportal.gsis.jp/files/2021_yoshida.pdf


 2つ目は同じく博士前期課程15期生の栗山俊之さんによる「GBS 理論に基づくエラー誘発型ロールプレイ教材の開発」です。大学での研究支援人材育成のための教材開発で、この場合の研究支援は大学でのシーズを外部機関と共同で開発を進めていくことを指しており、特に対外折衝スキルを中心とした業務を想定しているということでした。GBSをベースとしたのは本番の業務の場で明確な正解というものがないため、あえて失敗をすることでノウハウを練習する機会を提供したい、ということでした。

                   論文:https://idportal.gsis.jp/files/2021_kuriyama.pdf


 最後のテーマは博士前期課程12期生の川島孝太さんによる「看護管理者のフィードバックを支援するジョブエイドとeーニング教材開発」です。実際の看護業務の管理者に対して、業務に対するフィードバックや確認事項、また管理者としてのあるべき姿について学ぶためのジョブエイドのためのツールを開発されました。ベースとしたのはノベルゲーム(文章を読むことが中心目的のアドベンチャーゲーム)で、登場人物やストーリーには川島さんご自身が登場されたり実際の事例を使ったり、とリアリティのある作りになっていました。

                    論文:https://idportal.gsis.jp/files/2021_kawashima.pdf   

 事例をご紹介いただいた後はグループワークを行いました。テーマは「ご自身が感じている課題の改善に役立ちそう、取り入れられるかもと思った点」「話し合いをふまえて発表者もしくは、鈴木先生への質問」で、ワークの後に各グループからこれらについての発表をしていただきました。

 発表や質問のなかで印象深かったのは、吉田さんの発表の中で形成的評価のために開発ツールを使っていただいた3名のコンサルタントのうちお一人が、面談途中からそのツールを使わなくなってしまった、という点です。「形成的評価ができない」と困ってしまったそうですが、鈴木先生から「なぜ使わなかったか、という点も開発としては大切」というご意見をいただき、思い通りいかなくても、むしろ思い通りいかなかったことからも、思いがけない知見が得られる可能性を実感しました。また皆さんからは、ジョブエイドの対象者の選定について、シナリオを作る上での具体的な手法、などについての質問があり、参加された皆さんご自身が今抱えている課題や困り事についてなにか解決する方法はないか、と具体的に考えられているんだ、ということが想像されました。

 質問の中には「本題ではないですが・・・」という前置きのもと、「鈴木先生、評価設計マニュアルはいつ出されますか?」というものもありました。先生からは「まだ全く書いていないが、構想はある」というお返事でしたので、評価について悩んでいらっしゃる皆さん(私もその一人です)、期待して?お待ちしましょう!

 


 私事ですが、新型コロナ対応で業務が増し(医療従事者養成が本業なので、日常の授業や、特に学生実習に影響が大なのです)、現役Gsis学生であるにも関わらずIDについて取り組む時間が減っている昨今、みなさんが大変な中課題解決に向けて真剣に取り組んでいる様子を拝見して、自分の不勉強さを痛感した次第です。


 今回も多くの参加者の皆さんからいろいろな刺激をもらうことができたと同時に、同窓生の皆様と一緒にIDについて考えることができる貴重な機会であることを改めて実感しました。次回12月17日のまなばナイトも是非参加したいと思います。

                                 (熊本大学大学院教授システム学専攻同窓生・博士後期課程 中前雅美)